■思い出■

 

 

 

思い出の中の人は

いつでも優しく笑っている。

 

その笑顔を思い出すと―――――――

 

 

 

 

アフメド

 

 

許せないと思っていた。

砂の大地で敵として戦った「砂漠の虎」

あいつのせいで大切な友達を失ったのだから。

だけど父親と話をするために一旦戻ったアスランを助けてまた連れ帰ってきてくれた船にあいつは乗っていた。

アンドリュー・バルトフェルド・・・砂漠の虎。

許せない、と思っていた。

あいつの姿を見るまでは。

 

片腕を無くした、隻眼の虎。

そしてあの時傍にいた黒髪の人は・・何処にも見当たらなかった。

 

カガリはアークエンジェルからエターナルに戻ろうとする虎を廊下で待っていた。

言っておかなければいけないことがあったから。

これから『戦いを終わらせるための戦い』を共に戦っていくために。

自分の中の気持ちにきちんと決着をつけておくために。

「まだチリソース派なのか?」

虎は笑って言った。

バルトフェルドが自分を覚えていたことに少し安堵する。

「何か言いたいことがあるなら言っといた方がいいぞ」

バルトフェルドは言った。

もちろんそのために待っていたのだ。

だがいざとなるとなかなか言葉が出てこない。

「お嬢ちゃん」

「そういう呼び方をするな!」

カガリは唸った。

子供扱いされるのは腹立たしい。

今はストライクに乗る優しげな風貌を持つ男に似ているかもしれないとちょっと思った。

「オレが憎いか」

よく思っていることが顔に出ると言われる。

今、そういう顔をしているだろうか。

「私の友人は」

カガリはバルトフェルドの問いに直接は答えなかった。

「お前のせいで死んだ」

虎の表情は変わらない。

「オレを、殺すか?」

カガリは首を横に振った。

虎の視線を真っ直ぐ受け止めて言葉を返す。

「お前を殺してもアフメドは戻らない」

それはわかってる。

わかっているけれど。

理屈では納得が出来るのだけれど。

「だけど私は」

カガリは叫んだ。

「まだお前を許すことが出来ない」

 

まだ。

 

いつか許せるのだろうか。

カガリにはわからない。

ただ。

 

視界が滲んで潤んだ。

その先の言葉が続けられなくてカガリは目を伏せる。

バルトフェルドは黙ってカガリの頭に残っている手を乗せた。

ぽんぽんと、あやすように優しく叩く。

 

子供扱いが

今度は心地よい。

 

「でも」

 

「キラも私の大切な・・・友人だ」

カガリは視線を上げた。

「キラを許してくれて、ありがとう」

 

キラヲ許シテクレテ、アリガトウ。

 

正直な気持ち。

 

 

 

この戦争がなかったら誰も死ななかった。

この戦争が続けばもっと人が死ぬ。

 

大切な人が、死んでしまう。

 

だから。

 

 

カガリのストレートな物言いにバルトフェルドが少し笑った。

優しい目をしている、と思う。

そう思ってしまったことがなんだか悔しくて、頭に乗せられていた手を弾いて言った。

「ケバブには絶対チリソースだ!」

そのまま走り出す。

「ヨーグルトソースは邪道だ!」

少し離れて振り返りべぇと舌を出してやる。

虎は声を出して笑った。

 

 

***

 

 

 

アイシャ

 

 

 

話し合いのためにエターナルに集合した。

クサナギに帰ろうとしたところで虎に呼び止められる。

「お嬢ちゃん」

「・・・カガリだ」

ちょいちょいと手招きするバルトフェルドを思いっきり睨みつけてやった。

しかし相手はまったく気にしない様子でさらに大きく手招きをする。

「なんだよ?」

呼ばれるままに自室らしい部屋に入った。

勧められるままに備え付けのソファに座って不機嫌な声を発する。

カガリの機嫌などやはり気にせずに虎は楽しそうに奥から箱を持ってきた。

平たい、大きな箱。

渡されたそれをつい受け取ってしまう。

「・・なんだよ?」

「開けてみな」

テーブルの上に箱を置いて蓋を取る。

中から出てきたのは薄いグリーンの見覚えのあるドレス。

「・・・これ」

「ああ」

バルトフェルドは笑って言った。

その笑顔が何処か淋しげに見えたのは気のせいではないと思う。

「お嬢ちゃんに」

言いかけて直す。

「いや、カガリに貰ってもらおうと思ってな」

「私に?」

「ああ」

カガリは箱の蓋を閉めた。

もとどおりにした箱を虎に差し出す。

「受け取れない」

「何故?」

「だってこれは」

 

「大切なものだろう?」

 

これは、あの黒髪の女の人のものだろう。

今は此処に居ない、あの人の。

虎は多くを語らないけれど。

 

「だからこそだよ」

「・・・わからないよ」

大切なものなのにくれるというバルトフェルドの意思がわからずカガリは困惑したように答えた。

「オレ以外にもあいつのことを覚えていてもらいたいから、かな」

 

彼の人が生きていた証。

・・それはもう思い出の中にしかないから。

 

不覚にも涙が出そうになってカガリは下を向いた。

余計に視界がぼやけて慌てて手の甲で目を擦る。

「貰っておく」

 

「平和になったら着る」

 

大事にするから、と小さな声で付け加えると虎は笑って頷いた。

 

 

思い出の中の人は

いつでも優しく笑っている。

 

その笑顔を思い出すと

たまらなく寂しくなる。

 

本当は

今、隣で

 

 

 

 

笑っていて欲しいのに。

 

 

END

 

 

 

 

どうかもう誰も死にませんように。

2003.08.12