■生きる術■

 

 

右のは駄目だ、と博士は言った。

何の感情も無さそうにその子は立っていた。

 

 

精製の過程で不具合が生じ、少々脳をやられているのだという。

実際、言葉も話せない。

ぼんやりと意味もなく立っていることも多い。

最初はコミュニケーションをどうとっていいのかもわからなかった。

だが、こちらの言葉は理解しているようで、言われたことはきちんとこなす。

リベッタは博士の研究の手伝いの傍ら、バイスに言葉を教え始めた。

喋れるようになれば、この細い身体に不似合いな大きなテツグンテの少年も、可愛らしく思えてきた。

表情も豊かになって、普通の少年と変わらない。

最初はただ得体の知れない存在だった「ユンボル」も、懐かれれば子犬のようだ。

ねーちゃんと呼び、慕ってくるバイスを、リベッタも可愛がった。

 

 

バイスは馬鹿だ、とクレンは言った。

バイスは嬉しそうに絵本を読んでいた。

 

 

何故じゃ、とリベッタは聞いた。

リベッタの教える言葉を覚えて、バイスはかなり喋れるようになってきた。

この短期間で此処まで喋れるようになるとは正直思っていなかった。

最初の様子を見る限り。

脳がやられている、という話だったが、本当に馬鹿だ、ということもない。

クレンはそれでもバイスは馬鹿だ、と繰り返す。

いくら意地悪しても、すぐ忘れる。

意地悪?

リベッタは聞き返した。

八つ当たりしても、意地悪しても、すぐ忘れる。

この本だって、とクレンは読んでいた本を閉じた。

バイスのお気に入りの本なのに取り上げた。

でも、バイスは馬鹿だからすぐ忘れる。

リベッタを挟んで反対隣に居たバイスにその本を突き返す。

ありがとう。

バイスは嬉しそうに礼を言って本を受け取った。

ほら、とクレンは言った。

私が取り上げたのを忘れている。

 

ドカルトが脳をやられている、と評した意味が少しわかった気がした。

どこか、欠けているのだ。

いや長けている、と言うべきか。

嫌なこと、辛いことを、覚えておかないという能力に。

すべて忘れるということに。

 

多分、それが生きていくための術だったのだろう。

 

 

 

 

バイスは馬鹿だ、とリベッタは思った。

 

蘇生に成功し、目を開けたバイスは自分を見て笑った。

「ねえちゃん」

嬉しそうに。

 

ホーンを引き抜いて一度殺したのは自分なのに。

感情のまま。

 

 

お前が

 

 

馬鹿でよかった。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

姫視点でバイスたん。

 

お頭が弱かったり

姫に殺されたり

でもラスト、姫側に居たり

なんかもういろいろ妄想して萌えたりしてます(笑)

バイスたん大好き!

 

2007.05.09