■不思議■
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生きていれば人間には不思議なことがひとつやふたつ起こるんだと、お母さんは言っていた。 今まさに私はそれを体感している。
たとえば、学校から帰ってきて『うたかた荘』の扉を開ける。 「ただいま」 玄関からすぐ共用のリビングだから、たいてい誰かしら居て、返事をしてくれる。 「おかえり」
其処に私は特定の人物を探してしまう。
今日はリビングにエージくんとアズミちゃんが居た。 「明神なら仕事」 アズミちゃんの相手をしながら、エージくんがそう言う。 「えっ」 思わず聞き返していた。 「私、今何か言った?」 明神さんは? そう声に出して言っていたのかと思ったけれど、エージくんは首を振った。 「いや・・・明神を探してたんじゃないのか?」 「きょろきょろしてたよ」 「えっ・・」 アズミちゃんにそう言われて、私は次の言葉が出てこなくなってしまった。 つまり、それは。 言わなくてもわかるほど態度に出ていた、ということだ。
目が、明神さんを探してる。 明神さんのことを、追いかけてる。
「ああ〜」 「なんだ、どうしたんだ、ヒメノ!」 がくり、と膝を付いた私に吃驚してエージくんが訊く。 どうした、なんて。 「私が聞きたいよ」 私の呟きにエージくんはわけがわからん、という顔をした。
どうしてなのか、わからない。 だけど、本当は、わかってる。
私は 多分 明神さんのことが
だけどそれが何故かなんて、さっぱりわからない。 いつからそんな風に思うようになったのかも、全然わからない。 確かに助けてもらったけど! 優しい人だと思うけど! わからないことだらけだ。 「お、帰ってたのか、ひめのん」 「きゃあ!」 後ろから声をかけられて驚いて文字通り飛び上がった。 「な、何?」 私の反応に吃驚して玄関先で固まってしまった案内屋さんに、誤魔化すように笑う。 「・・おかえりなさい」 生きていれば人間には不思議なことがひとつやふたつ起こるんだと、お母さんは言っていた。 今まさに私はそれを実感している。 「ただいま」 明神さんが返事をしてくれるだけでこんなに嬉しい。 お母さん、私は自分の心が、一番の不思議です。
END
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明神←姫乃な感じで。
ひめのんがとても好きです。
トウゴはヘタレだからくっつくまでが大変そうだ(笑)
2006.07.05