■煎餅■

 

 

とりあえず、助けてくれたみたい。

 

壁とソファに挟まれながらヤコはそう思った。

 

 

事務所の中はそれはもう酷い有様だった。

窓ガラスが割れてカケラがそこかしこに飛び散っている。

机も原形を留めていない。

お煎餅のようにぺっちゃんこだ。

あのままアソコに居たら、あんな風になっていたのだ、と思うとゾッとする。

工事中のクレーン車から突然鉄球が飛び込んできたのだ。

そんな酷い状態にもかかわらず、ヤコは無傷だった。

ソファにはガラスの破片が多数突き刺さっていたが。

 

ネウロが、ソファを投げつけてくれたおかげで。

 

おかげで、とか全然言いたくないのだが。

感謝なんかまったくしたくないのだが。

痛かったし。

そもそもあれが女の子に対しての態度だろうか。

もう少し優しくしてくれたってバチは当たらないんじゃないの。

 

それでもネウロのおかげで怪我ひとつしなかったことは事実なのだ。

 

ネウロはいつものように済ました顔で事情を聞きに来た警察官に対応している。

「心当たりはない」なんて嘘ばっかりだ。

この間のアレに決まってる。

だけどそれが誰なのか今のところ皆目見当が付かない。

 

姿の見えない敵は、かなり怖い。

何処から悪意がやってくるかわからないから。

 

でも、ネウロが居れば、大丈夫かな。

 

 

ネウロと居れば、そんな悪意に対しても頑張れるような気がする。

 

 

其処まで考えて、ヤコは首を振った。

 

 

いやいや、アイツが一番ヤバイんじゃん!!

そもそも人間じゃないんだし!

 

なんだかいろいろ慣れすぎてる気がする。

非日常的な存在に。

普通の女子高生だったはずなのに、と今更ながらもヤコは思った。

「ヤコよ」

警官を見送ってネウロが口を開いた。

「我輩の集めた情報によれば貴様のように食欲が優先の女子高生は人間界ではあまり『普通』とは評されないようだぞ」

「余計なお世話!つか人の思考を読まないでよ!!」

数々の伝説を持つ食いしん坊女子高生探偵はキィと怒鳴った。

「まったくもう」

相手にしてられない、とばかりにドアの方へ向かう。

机ではなくなってしまったモノに腰掛けて、ヤコの背中にネウロが問うた。

「何処へ行く」

「台所!怒ったらお腹空いちゃった」

振り返ってべえと舌を出すとヤコは事務所の奥にある小さなキッチンに引っ込んだ。

この場所を探偵事務所にした当初、やたらと片栗粉が入っていた棚は、今はヤコのお菓子置き場と化している。

ヤコは棚に残っていたせんべいを食べながらため息をついた。

 

「お礼くらい言ってやろうかと、思ったのに」

 

しかしお礼を言われるよりも謎を食べた方がネウロは喜ぶだろう。

そしてもうすぐまたこの「謎」に向かって動き出すことになるはずだ。

ヤコも自分のできる事をしなければならない。

「腹が減っては戦は出来ない、ってね」

 

 

とりあえずヤコは自分のお腹を満たすことに集中することにした。

 

 

END

 

 

 

 

 

第67話「犯」と68話の間くらいのカンジで。

ネウロってばヤコたんを庇ってくれるんですもの。

萌えるじゃん!

ってことで(^_^)

 

 

2006.07.12