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「ピノキオって知ってるか?」
エドの前を歩いていた黒髪の女はその問いに振り返った。
「いいえ」
答えるその唇は真っ赤に塗られていて。
美人、と言ってもいいのだろう。
しかしその赤は人の血にも似て。
ホムンクルス。
一見人と変わらぬ容姿を持ったその女は、だが人ではない。
不死身ではないけれどそれに近い身体を持ち、身体の一部が変化して攻撃してくる。
人間ではない存在。
それなりにその生き方を楽しんでいるようにも見えるのに、人になりたいのだと彼女は言う。
人間になりたい、と。
そして今、仲間であるホムンクルスを裏切るような真似さえして自分を弟のところへ案内しようとしている。
人間になりたい。
人間になりたい。
呪文のように繰り返す、その願い。
人ではないモノは人間になれるのか?
ふと、昔読んでもらった絵本を思い出した。
「ピノキオって知ってるか?」
小さい頃母さんが読んでくれた絵本。
ゼペットじいさんの作った木の人形だったピノキオは冒険の末人間となり、優しいおじいさんと一緒に暮らす。
幸せに。
一緒にその話を聞いていた弟は隣で言った。
「魂を貰った時点でピノキオは人間になっていたんじゃないの?」
魂のある、木の人形。
弟の魂を定着した、鎧。
魂が人である証ならば。
ではホムンクルスは・・?
人ではないホムンクルスには魂は無いと思っていたけれど。
「ピノキオって知ってるか?」
「いいえ」
問いに答えた女は薄く笑って続けた。
自嘲するかに見える笑み。
「けれど私のモトとなった人間は」
「知っていたかもしれないわね」
人間になりたい。
元に戻りたい。
その願いの強さにどれほどの差があるというのだろう。
そして
その思いの先には
いったい何があるのだろう。
遠くを見つめる女の視線の先には、暗い闇以外には何も見えなかった。
END
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