■アップルパイ■
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「このアップルパイすごく美味しい」 そう言ってアルフォンスが笑った。
昔のままの姿で。
目を開けると其処には見慣れた天井があった。 ラッシュバレーで借りている自分の部屋の煤けた天井。 窓の外はまだ暗く、枕元の時計はまだ夜明けまで時間があることを告げている。 ベッドの上に起き上がったウィンリィはそこで初めて自分の頬が濡れているのに気がついた。 『ウィンリィは本当に泣き虫だな』 誰かの声を思い出しながら手の甲で少々乱暴に拭う。
幸せな夢だった。
幸せで、とても切ない夢。
自分の作ったアップルパイを食べてアルフォンスが笑っていた。 もちろん其処にはエドワードも居て。
みんな、笑っていた。
夢の中のアルフォンスは子供のままの姿で。 だって14歳のアルなんて知らない。 仕方ない、といえばその通りだ。 14歳のアルフォンスをウィンリィは見たことが無い。 記憶の中のアルフォンスは10歳の姿のまま。 今のアルフォンスは鎧なのだから。 現在のアルフォンスは物を食べない。 眠らない。 だから 夢も見ない。 魂だけの存在。 今アルフォンスは何をしているのだろう。 暗闇の、中で。 「大丈夫、よね」 言い聞かせるように声を出して言ってみた。 他には誰も居ない部屋に自分の声が消えていく。 「きっとエドの心配してるわよ」 『もうまたお腹出して寝て!』 ぶつぶつ言いながらも兄の世話を焼くアルフォンスの声を思い出してウィンリィは笑った。
そうきっと大丈夫。 食べられなくても、眠れなくても。 この間のようなこともあるかもしれないけれど。 あの二人なら。 一人じゃないから。 もし弱音を吐いてきたならばちゃんと受け止めてあげればいい。 自分にしか出来ないこともきっとあるはず。 そのためにリゼンブールに戻らずに此処に残ったのだから。 「さ、まだ早いからもう一回寝よっ」 ウィンリィはもう一度ベッドへ潜り込んだ。 再び幸せな夢を見るために。 いつかその夢が現実になることを願いながら。
明けない夜は、ないのだから。
明日はりんごを買ってこよう。
END
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ウィンリィ好きです。人のために泣ける子。
2004.02.09