■変わらぬ声■

 

 

「兄さん」

 

 

宿の部屋でベッドに腰掛けてぼんやりとしているとアルフォンスの声が上から降ってきた。

次の瞬間目の前に弟のUP。

「わわっ」

びっくりして仰け反ったエドワードの顔を覗き込むようにしてアルフォンスが言った。

「何か顔が赤いよ?」

「別に」

自分を心配する声を否定する。

ほんの少し身体がだるいような気はするがたいした事はない。

「何とも無い」

「嘘つき」

しかし即座に否定し返される。

それからアルフォンスの鉄の腕がエドワードの額に当てられた。

熱を測る、というよく見られる普通の行為。

 

 

そんなことをしてもエドワードの体温はアルフォンスにはわからない。

 

 

そんな風に、したのは自分。

 

びくり、と固まったエドワードを見てアルフォンスが言った。

「あ、今『気持ちいい』って顔した」

「は?」

アルフォンスの言葉に思わず間抜けな返答をしてしまう。

「冷たくて気持ちいい、って顔したよ」

「してねぇよ!」

「したね!」

「してねぇ!」

「した!!」

どうあっても自論を曲げる気が無いらしい弟にエドワードは唸った。

「昨日雨に濡れたせいでしょ」

「大丈夫だって言ってるだろ」

「兄さんの大丈夫は信用できません」

つんと横を向いて宣言されてさらにぐうの音も出なくなる。

「さ、さっさと寝るっ!」

ベッドへと追いやられてぶちぶちと文句を言ってみるがやはり訊いてもらえそうも無かった。

弟はこういうとき意外に頑固で譲らない。

「氷枕あるか訊いてくるから」

そっと頬に触れたアルフォンスの手を引き止める。

「いいよ」

「兄さん?」

 

「今は『冷たくて気持ちいい』ってカオしてるだろ?」

 

に、と笑って見せるとアルフォンスが小さく笑った気配がした。

それからそっとその手が額に乗せられる。

 

麻疹も水疱瘡も全部まずアルフォンスが貰ってきた。

当然それは兄であるエドワードもかかる羽目になる。

そうして先に直ったアルフォンスが心配そうに、熱を出して寝込む自分を覗きに来るのだ。

いつから其処にいたのか。

触れてくる手は、冷えていた。

 

「兄さん、大丈夫?」

 

 

 

 

あの頃と変わらない声が、心地いい。

 

 

 ***

 

『怪我を‘手当てをする’って言うだろう?』

 

寝息を立てはじめたエドワードを見ながらふと小さい頃聞いた話を思い出す。

ウィンリィの父親が言った言葉だ。

ウィンリィの両親は医者だったのでエドワードとアルフォンスも世話になった。

小さな擦り傷から発熱まで。

今思えば専門は外科だったのだが、其処は田舎の町のことだから仕方が無いのだろう。

親切で腕のいい医者として評判だった。

 

『あれは‘手’を‘当てる’から来ているんだよ』

 

『手を当てて‘早く直って欲しい’って気持ちを送ってるんだ』

 

病気のときは誰でも少なからず気弱になったりするものだ。

誰かが側にいるだけで安心する。

ウィンリィの父親の言ったとおり‘気持ち’が手を通して送れるものならば、この鎧の身体でもそれは可能なはず。

 

心は、変わらずココにあるのだから。

 

 

「・・アル?」

「あ、ごめん起こしちゃった?」

やはり薬を貰ってこようかと立ち上がった拍子に起こしてしまったかとアルフォンスは兄の顔を覗き込んだ。

顔色はいい。

自分の鉄の掌を額に当ててみる。

 

そんなことをしても体温がわかる訳ではないのはアルフォンスもわかっている。

 

何も伝えない、手のひら。

 

だがこうして兄の様子を見ることでわかることはたくさんある。

 

「いや、それより腹減った」

エドワードがお腹を押さえて真面目にそう言ったのでアルフォンスは思わず笑った。

「もう大丈夫そうだね」

「ああ」

 

麻疹も水疱瘡も全部まずアルフォンスが貰ってきた。

先に直った自分が、熱を出して寝込むエドワードを看に行くと決まって兄は言った。

 

 

 

 

「もう平気だ」

 

 

 

 

あの頃と同じ返答に、安堵する。

END

 

 

 

アルは掌じゃなくエドの様子で身体の具合を看る、って感じで。

ウィンリィの両親はあんな田舎だから外科だけじゃなくいろいろやってたと思うんですけど

どうでしょう。

2004.01.28