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「だって雨に濡れていて可哀想だったんだもの」
猫を抱いてアルフォンスが言った。
硬い鉄で出来た腕の中でネコがにゃあと細い声で鳴く。
エドワードは頭に手を当ててため息をついた。
それから外を指差しておもむろに最後通告を出す。
「元の場所に捨てて来い」
「だって兄さん」
捨てて来いと言われる事など最初からわかっていた。
わかっていたけれどどうしてもその言葉に反論してしまう。
「駄目だ」
「でも」
「俺達みたいな根無し草が動物なんか飼えるわけが無いだろう」
その理由だって痛いほどわかっている。
わかっているけれど、でも。
寒そうに震えていた。
お腹をすかせていた。
抱き上げたら鳴いた。
雨に濡れていて可哀想だった。
可哀想だった。
可哀想だった。
可哀想だった。
そう思ったのは本当。
だけど。
「・・・せめて雨がやむまで」
小さく呟いてネコをそっと抱きしめる。
堅い腕で。
ネコが痛がったりしないようにそっと。
その様子にエドワードが妥協のため息をつく。
「雨がやむまでだぞ」
「ありがとう、兄さん」
結局は我侭を許してくれる兄に礼を言ってネコをもう一度抱きしめた。
濡れていた毛もすっかり乾いてふかふかになったネコが手の中でもう一度にゃあと鳴いた。
すっかり乾いたネコは、もう震えていない。
寒くない。
だけど堅く冷たい手にはその体温は伝わってこない。
温かいはずのネコ。
でも
それが
わからない。
ツメタイテツノカラダ
ほんの何年か前まではそんなことがわかるのは当然だった。
タマシイダケノソンザイ
寒そうに震えていた。
お腹をすかせていた。
抱き上げたら鳴いた。
雨に濡れていて可哀想だった。
可哀想だと、思ったのは、本当。
だけど
可哀想だと思う心を無くしたくないと思ったのも、本当。
それも無くしてしまったら
自分はただの鉄の塊ではないのか。
「・・・雨がやんだら」
エドワードが言った。
「誰か飼ってくれるやつ探してやんなきゃな」
アルフォンスが顔を上げるとエドワードはふいと視線を逸らしてしまった。
捨てて来いとアルフォンスを怒った手前照れくさいのだろう。
不器用に優しい兄。
「ありがとう兄さん」
もう一度アルフォンスは言った。
心から。
「だって雨に濡れていて可哀想だったんだもの」
雨に濡れていて可哀想だった。
すっかり乾いたネコは、もう震えてはいない。
わからないはずなのに
温かい気がした。
END
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